東急バス 30周年記念誌 更新版
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5風評被害を受けていた東急グループの会社「伊豆急行」沿線地域の活性化を図る仕事にも取り組むことになりました。――その後、国際事業に関わられたのですね。事業の内容について教えてくだい。 東急グループは、東急多摩田園都市の開発で蓄積したノウハウを生かして、2012年にベトナムの国営企業と合弁会社を設立し、ビンズン省において「ビンズン新都市」の街づくりに参画しています。その交通インフラを整えるために、東急バスの仲間たちと共に現地へ赴任し、2014年に「ベカメックス東急バス」を設立、初代社長に就任しました。 まず、交通渋滞で被る経済的な損失や環境汚染を防ぐためにも、ベトナムで主流である個人のバイク移動から公共交通機関へのモーダルシフトを促す提案をし、車両は環境に優しいCNG(圧縮天然ガス)バスを採用しました。 ――どのようなシステムを導入されたのですか。 ベトナムには従来のバスに対するネガティブな固定観念がありましたが、時刻表に基づく定時運行、安全快適な車両の導入、お客さまへの丁寧な接客案内など、付加価値のある日本式(東急式)のノウハウを活用して、ゼロから全く新しいシステムの整備を図りました。日本の運転士による研修を現地で行った際、現地採用のドライバーと言葉は通じなくても化学反応を起こすように気持ちが通い出し、一緒に指差呼称をしていた姿に心打たれました。 私たちの運行や車両整備に関するノウハウは惜しみなく現地で共有し、実際にハノイ中央政府にまで「ベカメックス東急バス」の名がとどろいていますので、ビンズン省、ひいてはベトナムの国全体の公共交通のあり方に一石を投じることができたと感じています。 そして、私はこの事業に携わった経験から、「交通事業をベースとした街づくりが東急の持ち味で、バス事業が大きな役割を担っている」と改めて認識しました。――東急特有のノウハウを生かし、海外の都市開発に貢献されたのは意義深いことですね。 東急は、創業以来「まちづくり」を通して、豊かで充実した暮らしの実現を追求してきました。 一般的なデベロッパーの仕事は、開発し販売したところで完結しますが、東急はさらに二次開発、三次開発と付加価値のあるサービスを提供し続けていきます。その最たるものが多摩田園都市開発です。既存の住宅街にバス路線を引くのではなく、まずバス路線を整備して、一定の人が集まったら鉄道を引き、バスは支流となる。つまり、路線延伸と沿線開発を並行して進めたのです。 ビンズン新都市のプロジェクトで、当初のベトナム側の要望は鉄道を引くことでしたが、この東急の経験とノウハウを提示して、まずはバス路線を整備することになりました。今後は新たに、ホーチミン市中心部からの地下鉄1号線の終点駅とビンズン新都市とを都市間バスで結ぶ計画が、日本のODA(政府開発援助)を活用しながら進んでいます。――海外で実績を残された後、2019年から全世界に広まった新型コロナウイルス感染症の終息が見通せない中、2021年4月に東急バスの社長に就任されました。今のこの状況をどのように見ていますか。 2017年にベトナムから帰任後、東急の国際事業部門の責任者としてタイやオーストラリアなどへ度々出張していましたが、2019年に新型コロナウイルス感染症が発生した後は、在宅勤務により月1、2回本社に出社する生活へと一変しました。ですから、ライフスタイルやワークスタイルの変化によって、コロナ終息後も従前の輸送人員水準には戻ることはないであろうと身をもって感じていましたし、今も希望的な観測を持つべきではないと思っています。 未曽有の事態に直面し影響は甚大でありますが、私は、以前から覚悟していた少子高齢化問題の大きな波が、早まってやってきたものと捉えています。今を新たな成長への転換点として、意識改革だけでなく抜本的な事業改革をするきっかけにする。つまり、エリア内移動需要を創り出す「モビリティ・カンパニー」への変革に舵を取るチャンスの時だと思うのです。

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